第2回神道国際学会専攻論文発表会
本会理事による第2回の専攻研究論文発表会が平成19年11月17日、三重県伊勢市の伊勢パールピアホテルで開かれ、会員や一般、外部研究者など約80人が参加した。今回から広く一般へ聴講を公開した。全発表の終了後には質疑応答があり、発表内容に対する疑問のほか、海外における神道への認識の現状に関する質問などがあり、発表者のみならず多くの参加者が意見を交わした。
開会にあたり薗田稔会長は「理事の方々が現在、研究しているところの一端を聞き、話しあう機会。皆さんの忌憚のない意見を賜れれば」と挨拶。また閉会でアラン・グラパール副会長は「このような機会を皆でつないでいき、お互いに頑張っていきましょう」と呼びかけた。総合司会は梅田善美理事長が務めた。 なお、発表会に先立ち前日には、理事らが揃って神宮の内宮と外宮を正式参拝し、本学会の興隆を祈念した。 今回の発表は9件で、前回同様それぞれの発表に対して外部のコメンテーターから発言してもらった。
発表
▼発表1
「柳田国男の神道観」茂木栄理事(國學院大学准教授)
柳田民俗学における政治性の薄まった〝民俗学的神道論〟ともいうべきものを、依代など木の研究などを含めて概観しつつ、柳田の神道観念は、国家神道を離れた戦後の神道人には受け入れられやすい状況だったと付け加えた。 コメンテーター: 吉井貞俊(西宮文化協会会長)
▼発表2
「時代によって変わる神道の国際的イメージ」マイケル・パイ理事(マールブルク大学名誉教授、大谷大学客員教授)
神道研究に関して、政治性との関連に視点を置く意義を認めつつも、神道の全体像が看過される、あるいは研究者ごとの認識に左右されて多様性が意識されない、などの危険性があるとして、現象面から広く見るよう指摘した。 コメンテーター: 薗田稔(京都大学名誉教授)
▼発表3
「日吉社の近世」ジョン・ブリーン理事(ロンドン大学教授)
近世に起きた日吉社をめぐる歴史事象をたどり、延暦寺との確執や、江戸幕府を中心とした権現信仰への対応、さらには吉田神道の広まりへの対抗――などから、日吉社としてのアイデンティティー存立への模索を探った。 コメンテーター: 嵯峨井建(賀茂御祖神社禰宜・京都大学非常勤講師)
▼発表4
「伊勢式年遷宮と践祚大嘗祭」薗田稔会長(肩書きは前記)
式年遷宮の意義――20年に一度の執行、古代様式を厳守する神殿や装束や神宝類の新調――などについて践祚大嘗祭の神話的儀礼的な性格との比較、祭りなど神話・儀礼体系の基本性格の確認などの作業から考察した。
▼発表5
「都市文明・伝染病・宗教」三宅善信常任理事(金光教泉尾教会総長)
都市文明を基盤に発生した「創唱宗教」現象は、人口が集積した都市で流行した伝染病との関係を抜きには考察できないとして、都であった京都などにおける伝染病対策と説話、信仰との関わりを歴史的に具体例で示した。 コメンテーター: 泉美治(大阪大学名誉教授)
▼発表6
「神饌研究の諸問題」アラン・グラパール副会長(カリフォルニア大学サンタバーバラ校研究教授)
神道研究のなかで焦点の当てられることの少なかった「神饌」をテーマに、歴史的、神学的、社会経済的、さらに文化的な観点から考察する立場のあり方、その際の視座を示し、同時に各神社の特殊神饌などを紹介した。 コメンテーター: 齋藤ミチ子(國學院大学客員教授)
▼発表7
「一神教の闇」國弘正雄理事(英国エジンバラ大学特任客員教授)
一神教が歴史的、現代的にもたらした問題は非連続性と排他性にあると指摘し、排他・覇権主義を歩む国際社会における勢力を批判しつつ、本来の神道などを含む、いわゆるアニミズムなどの多様性の思想に可能性を期待した。 コメンテーター: 三宅善信常任理事(肩書きは前記)
▼発表8
「仏教的見地によるアマテラスとスサノオ」ベルナール・フォール理事(コロンビア大学教授)
日本神話について、中世を中心に、その前後においても、中国やインドなど他地域の宗教からの影響により解釈の変化や書き換えはあったとし、アマテラスやスサノオの姿を例に、信仰上の神仏の混交的な性格を指摘した。 コメンテーター: 松本郁(・立命館大学COEポストドク研究員)
▼発表9
「王権論と神道流」マーク・テーウェン理事(オスロ大学教授)
王権伝達の表れを皇室儀礼以外の、神祇灌頂や寺院の即位灌頂などにも求め、同時に、権威の上から下への宣伝にとどまらない下からの想像による保護の主張という意義もあったとして、中世を転機とした王権論を考察した。 コメンテーター: 松本郁代氏(肩書きは前記)