第12回神道セミナー「映像で見るお地蔵さんと地域社会」

 12th-1神道国際学会は2月24日、第12回「神道セミナー」を神戸市東灘区の甲南大学甲友会館で開いた。会場を各地に移して年一回、神道を軸に多彩なテーマで催す公開講座。今回のテーマは「映像で見るお地蔵さんと地域社会~民間信仰共同研究会七年の歩みから~」。本学会の研究助成で活動してきた民間信仰共同研究会による成果報告の意味も含めての開催となった。共催は会場提供などで尽力いただいた甲南大学コミュニティー・デザイン・センター(CDC)。〝六甲おろし〟に小雪の混じる肌寒い一日だったが、当日参加も含めて多くの参加者が来場した。

  開会にあたり共催の平松闊・甲南大学文学部教授(CDC代表)は「CDCは地域に密着して活動していきたいと考えている。その意味で今回はよい機会を与えてもらった。施設も存分にご利用いただければと思う」と歓迎の挨拶。これを受けて薗田本会会長も「お力添えをいただき、また、CDCとともに開催できることは大変にありがたいことと思っている」と挨拶した。また、衆議院議員の松本純・自民党副幹事長からの祝電が披露された。

12semi-1関西に息づくお地蔵さんと地蔵盆

    トピック1では、民間信仰共同研究会のまとめ役である森田氏が、同研究会代表だった故・米山俊直氏(本会副会長、京都大学教授など歴任)の思い出とともに、研究会の活動を紹介した。そして、「お地蔵さんに対するイメージは人々の心のあり方を反映している」と話し、地蔵信仰の地域的、時代的な多様性と移り変わりを、人々の意識や地域社会の変化と関連させながら考察した。
神谷氏(トピック2)は阪神淡路大震災の犠牲者供養を地蔵に託する人々の姿を見たことを機に地蔵盆を撮り始めたと話し、地元・京都でも地区ごとに多様なその姿を紹介した。長尾氏(トピック3)は彩色の化粧地蔵、化粧なしの〝すっぴん地蔵〟など多彩な姿をみせる地蔵の魅力を語り、「地域ごとに素直な信仰のかたちが表されている。地蔵を知ることは町を知ること。町を知ることは人を知ること」と力説した。
鈴木氏(トピック4)は神戸市東灘区西青木地区の地蔵盆をビデオで紹介し、婦人らによる西国三十三所札所の御詠歌に合わせて子どもたちが輪になって長い数珠をくくっていく数珠回し、安置された地蔵と地蔵盆の世話を続ける人々の姿などを浮き彫りにし、京阪神の地蔵盆は「お年寄りと子供たちが一緒になる、いわばコミュニティーの潤滑油になっている」「お地蔵さんと人々との距離の近さが特徴的」と説明した。
福持氏(トピック5)は滋賀県の琵琶湖湖東地域の地蔵盆をスライドで解説。ムラの地蔵盆とともに地縁によるクミのもの、イエで祀るものなどが層をなしてあることを示し、その形態は、同地域で盛んな浄土真宗の報恩講が本山、末寺、門徒家で営まれる重層性を持っていることから、真宗の基盤を背景としたものと推察した。大森氏(トピック6)は、神職が社殿で祈祷をし、同時に僧侶が地蔵堂で法要を営むという長野県・戸隠神社宝光社の特徴的な地蔵盆を記録した映像作品を披露。神仏習合の江戸時代に同神社で一部追放された僧侶を祀るためというゆえんのあることを説明し、地蔵盆が死者供養の行事であることとの関連を指摘した。

共同体における地蔵盆の意義を探るディスカッション

   パネルディスカッション(第三部)では、三宅氏は「地蔵盆の姿も構造も年々変わっていくが、地域共同体のバックボーンとなる精神はつながっていると信じたい。地蔵盆が、かろうじて残っている〝顔見知り共同体〟をなんとか確保する装置であり続けることを願っている」、パイ氏は「地蔵盆は、子どもと大人、仏教と神道、地域の人々のつながりなど、様々な要素が交わっていて、原始的宗教の名残のある宗教行事と感じさせる」、薗田氏は「日本宗教の特徴は、個人信仰に囚われない共同体ならではの宗教的営みだ。地蔵盆も共同体の選びの一つであり、共同体に採りこんだという歴史があるのではないか」と、それぞれの見解を述べた。
ディスカッション中には質疑応答もあり、疫病予防の道饗祭とのつながり、五百羅漢など石仏との関係、地蔵信仰の歴史、化粧地蔵の発生と化粧の材料、地蔵の赤い前掛けや化粧の意味、大日如来と地蔵の誤認と庶民感情など、さまざまな質問や感想が来場者から出された。
最後に司会の村瀬氏はまとめとして、「現在の世界では〝文明の衝突〟がいわれているが、地蔵盆には、みな一緒というような、他者の立場を認めるような日本の宗教文化としての特徴があるのではないかと感じさせられた」と話した。

12semi-2   閉会にあたり総合司会の梅田氏は、「意義あるセミナーを開催できたのも、甲南大学ほか関係者、お手伝いいただいた学生さんたちのご協力によるもので、心より御礼申し上げたい」と謝意を表し、また参加者の顔ぶれにはロシア、アメリカ、中国、英国などの日本研究者がみられ、国際性豊かな会合となったことを紹介した。
なお、エントランスホールには、長尾氏による大阪・野田のお地蔵さん「ななとこまいり」のパンフレットや、研究会の「甲南大学周辺のお地蔵さん調べ」と題した手書きの分布図や地蔵の写真、神谷氏の京都の地蔵盆の写真などが数多く展示され、来場者は興味深く見入っていた。

プログラム

第一部【地蔵と地域社会を考える】
トピック1「地蔵を通して地域社会の変化を探求する/民間信仰共同研究会の歩みとテーマ設定の趣旨について」森田三郎(甲南大学文学部教授)、トピック2「スライドショー/京都の地蔵盆を撮り続けて」神谷潔、トピック3「化粧地蔵を考える~京都と小浜」長尾智子(DNPメディアクリエイト関西、地蔵愛好家)。

第二部【地蔵盆行事を考える―ビデオ作品とスライドを中心に―】
トピック4「京阪神の地蔵盆」鈴木岳海(立命館大学映像学部専任講師)および森田三郎、トピック5「湖東のお地蔵さんと地蔵盆…イエ地蔵・クミ地蔵・ムラ地蔵」福持昌之(滋賀県愛荘町愛知川観光協会事務局長)、トピック6「戸隠神社の地蔵盆~神も仏も…」大森康宏(立命館大学映像学部長)および鈴木岳海。

第三部【パネルディスカッション「地蔵盆と共同体の宗教文化を考える」】
司会=村瀬智(大手前大学メディア・芸術学部教授)、コメンテーター=薗田稔(本会会長、京都大学名誉教授、秩父神社宮司)、マイケル・パイ(本会理事、マールブルク大学名誉教授、大谷大学客員教授)、三宅善信(本会常任理事、金光教泉尾教会総長、大阪医科大学非常勤講師)。

総合司会は梅田善美(本会理事長)。