第13回神道セミナー「外国人研究者が語るお伊勢さん」

13thchirashi平成21年 2月22日、神奈川県鎌倉市の鶴岡八幡宮・直会殿にて第13回神道セミナーが開催された。後援は鶴岡八幡宮、同宮崇敬団体の槐の会が協賛。約250人が参加した。今回のテーマは「外国人研究者が語るお伊勢さん」。第62回「式年遷宮」が進むなか、伊勢信仰に焦点を当てるとともに、神道研究の国内外を超えたネットワーク化という本会目的に沿って、海外研究者に講師を務めてもらった。

プレゼンターはアレキサンダー・ベネット氏(大阪体育大学講師、本会理事)。講話は4題で、ヘィヴンズ・ノルマン氏(國學院大学神道文化学部准教授)が「斎宮とその世相」、マーク・テーウェン氏(ノルウェー・オスロ大学日本学科教授、本会理事)が「院政期の伊勢神宮」、劉琳琳氏(中国・北京大学外国語学院日本語言文化系専任講師)が「江戸時代庶民の伊勢信仰」、ジョン・ブリーン氏(国際日本文化研究センター准教授、本会理事)が「神宮大麻の近代史」と題してそれぞれ話した。総括はマイケル・パイ氏(ドイツ・マールブルク大学名誉教授、本会理事)。総合司会は本会の梅田善美理事長。
開会に当たって本会の薗田稔会長(京都大学名誉教授)は「今日は素晴らしい日和に恵まれ、心豊かに会場にきていただいたものと思う。神道や伊勢に関する歴史的な実態を改めて心で受け止め、伊勢を考えていただく機会としていただければ」と挨拶。また吉田茂穂氏(鶴岡八幡宮宮司)は「日本人は一直線に進歩に向かう歴史観ではなく、ものの行方、由緒を考え合わせながら、ものごとを進めてきた。まとめ、集約し、研ぎ澄ませていったのが神宮の遷宮。そこには時代の息吹が込められている。古代、神祭りをした原点に戻り、先に進め、繰り返してきた遷宮を含め、どういうふうに説いてくださるか、楽しみにしている」と歓迎の辞を述べた。

斎王を奉ることで 天皇自らも神に ―― ヘィヴンズ氏

 発生の実態把握が難しい斎宮・斎王制について、その意味や起源を探ったヘィヴンズ氏は、「伝承というものは、後の歴史的事実、認識を示していることもある」と述べたうえで、宮殿にあった大王の祖神が崇神王朝の代に外へと祀られたとき、豊鋤入姫、倭姫がそれに従ったとの伝承を念頭に、「そのような歴史的認識から起こってきたことはありえる」と推測した。地方豪族、律令制定後は郡司が一族の女性を皇室に奉る采女制度についても、そこには巫女としての宗教性があったという説を紹介し、「天皇の場合、奉るにも上位者はいないから伊勢の神に斎王を奉った。これによって神との血縁関係を作ることで自らを神として権威づけた」と話し、時代とともに意味の変化はあっても、それぞれに関連性のあることを示唆した。

どの時代とも異なる 中世のアマテラス ―― テーウェン氏

 新しい支持層を開拓していく必要性に迫られた院政期の神宮に関して、新たなアマテラス像の登場があったことを指摘したテーウェン氏は、12世紀の『天照大神儀軌』、鎌倉後期の『鼻帰書』を取り上げ、広く人々の心を掴むための複合体としてのアマテラスを紹介した。十一王子、荒霊としての閻羅王、さらには泰山府君祭に役割を果たす神々なども盛り込んだアマテラスの新解釈が行なわれたとした。また、天道や冥道がテーマとして浮上したこと、僧侶の宝志が伊勢は大慈大悲であり浄・不浄を選ばないと主張したこと、大日如来や観音菩薩、薬師如来とも関連付けられたことなどを付け加え、「『儀軌』に出てくる神は死者を裁いて人々を往生させる神である」「『鼻帰書』では、渡会家行の語るところを通して神宮の神職は理論とは別に一般の人々に対して閻羅王を登場させた」と話し、「閻魔の宮殿としての伊勢があり、みんな死んだら伊勢に行き、裁かれる。『だから生きているうちに伊勢にコネを作ったほうがいいよ』と諭したようなもの」と説明した。そして、「浄・不浄も、穢れも顧みない中世の伊勢は古代とも近世・近代とも異質な伊勢である」とまとめた。

一般庶民と思想家たる庶民それぞれの意識 ―― 劉氏

 近世庶民の伊勢信仰、その行動の実態に焦点を当てた劉氏は、三河の豊田藩内の神明社を取り上げ、伊勢信仰の地域における拠点たる神明社への奉納行動について解説した。また、同じ庶民でも「羽田野敬雄や石田梅岩など史料の書き手としての庶民」と「記録を残さなかった、逆に描かれた庶民」に分かれるとし、「一般庶民は現世利益を求めたのに対し、いわば思想家としての庶民は、天照大神の末裔としての日本人という意識があり、国家意識があった」と論じた。

神国日本の原点としての 天皇、神宮 ―― ブリーン氏

 神宮大麻をどう捉えるかを追求することで現代の神道の姿を浮き彫りにすることを試みたブリーン氏は、「神社本庁が神宮を本宗とするのは、皇孫の祖たる天照を祀るからにほかならない。天皇、神宮こそは日本人の回帰する原点であり、それこそが神国日本を復帰するときに目指すところだ」と指摘。戦後が第二次大戦前と異なるのは宗教法人として国家との関係がとりあえずないことだが、首相が正月に伊勢を参拝するなど国家と伊勢の関係は再びある程度、実現していると強調した。そして「神宮大麻が神聖なる御徴、単なる象徴でないことは確かだ。京都府神社庁が大麻頒布増の戦略として神宮大麻を自然の神と捉えたことは本庁が必ずしも好むところではない」と述べた。そして「神道=自然・環境とする欧米人や神職はいるが、本庁が二十一世紀に目指すところとは何の関係もないことは確か。神国日本が何を意味するのか、中身が問われるところだ」と提起した。

総括

   講話をうけた総括でパイ氏は、1)古代では政治と宗教が必ずしも区別されなかったと考えられる 2)普遍性のある神が変化するときは、神への普遍的ニーズにも変化が起こっている 3)伊勢参拝の近世的な興隆は民間の信仰の隆盛と無関係ではない 4)簡単に戦前に戻れるものではないことは神道指導者も認識しているはず――など、学術的な討議における留意を述べ、プレゼンターのベネット氏も「過去から現在へ、そして未来への伊勢のあり方まで聞かせてもらえたと思う」とまとめた。

出講者の簡単なご紹介

breen 神宮大麻の近代史」
ジョン・ブリーン氏 (国際日本文化研究センター准教授)
teewen 「院政期の伊勢神宮」
マーク・テーウェン氏(ノルウェー国オスロ大学日本学科教授)
havens 「斎宮とその世相」
ノルマン・ヘイヴンズ氏(國學院大学神道文化学部准教授)
ryu 「江戸時代庶民の伊勢信仰」
劉琳琳氏(中国北京大学外国語学院日本語言文化系専任講師)
pye 総括
マイケル・パイ氏(ドイツ国マールブルク大学名誉教授)