神道国際学会 設立15周年記念シンポジウム
「神道の立場から世界の環境を問う」
神道国際学会の設立15周年を期した記念シンポジウム「神道の立場から世界の環境を問う」が平成21年10月17日、埼玉県秩父市の秩父神社参集殿で開かれた。内外から多くの研究者や神社関係者、一般者が参加。森や水の風土と、そこに育まれた神道文化が環境問題に関わる可能性や、日本が発信する環境協力について見つめ直した。関連DVDの上映をはさんで三つの基調発題があり、発題者をパネラーとしたセッションも展開した。うち発題(1)では薗田稔氏(本会会長・秩父神社宮司・京大名誉教授)と李春子氏(神戸女子大講師)が、発題(2)では畠山重篤氏(牡蠣の森を慕う会代表)が、発題(3)では中野良子氏(オイスカ・インターナショナル総裁)が登壇した。総合司会は梅田善美氏(本会理事長)、モデレーターは茂木栄氏(國學院大准教授・本会理事)が務めた。またクロージング・コンサートも催され、ソプラノ歌手・薗田真木子さんが谷有希子さんのピアノ演奏にのせて歌を披露。その後、祝賀レセプションも開かれた。秩父神社が後援、埼玉県神社庁、財団法人オイスカ、NPO法人社叢学会が協賛した。
開会にあたり挨拶した薗田会長は、「神宮で神嘗祭が行なわれているこの秋に、記念の催しをさせていただくのはありがたいこと。本会の研究者交流も進み、本日は会員の皆さんにもお越しいただいた。各先生それぞれの立場からのお話を楽しみにしたい」と述べた。
また来賓として挨拶した秩父市長の久喜邦康氏は、歓迎の言葉とともに「秩父は周りが森林であり、この広大なフォレストを維持し、二酸化炭素を吸収し、森林に醸成された水を下流に流すことは当市にとって大きな仕事だ。また来年には『秩父祭』がユネスコの世界無形文化遺産に登録予定になっている」と述べ、環境と祭りを内外に発信する意向を表明した。
続いて本会の発足と発展に尽力し、副会長も務めた深見東州氏へ感謝状が贈呈され(代理出席)、さらに政界・神社界からの祝電も披露された。
「風土は自然と文化、そして生活実感の世界」 薗田氏
第一部「映像と基調発題」ではまず、DVD「霊峰白山と山麓の文化的景観」が上映され、これを受けて薗田会長が基調発題(1)として「鎮守の森を世界へ/森と水――いのちの神々」をテーマに話した。同氏は白山信仰の三拠点、加賀・越前・美濃の「三番場」をスライドで紹介し、「登山道が単なる道でなく禅定道であることが注目される。登拝が仏に近づく修行であるという考えが今に伝わっている」と山岳信仰の姿を強調した。
そして、生活と宗教の世界としてまとまりを持つのが風土だとし、「単なる自然と文化というのではなく、生活者にとっては実感の世界。白山の場合は〝命のオヤガミ〟と捉えられた世界となっている」と説明した。
また、以上を凸型としたうえで薗田氏は、凹型の盆地世界の機能についても解説。大和盆地や秩父盆地を事例に奥山の水分神、水系、田のある盆地という配置を宗教コスモスの観点から論じた。そして水分神は「水の神」「子育ての神」の両性格を特徴的に有するとして、田植神事などの様相を論じた。
最後に同氏は「GNPの追求が繁栄の一つの象徴とされてきたが、はたしてそれで人間は幸せになるのか」と話し、ブータンが提唱し理論化されつつあるGNHの概念を紹介。ハピネス(H)の四条件(豊かな自然環境、豊かな伝統文化、良い政治の存在、公正な経済発展)に沿った地域起こしを提言した。
「鎮守の森――神と人間と自然がつながる風景」 李氏
続いて発題(1)の関連報告として李氏が、なぜ今、鎮守の森に注目するのかについて話した。同氏は「鎮守の森はアジアに共通する風景であり、それは神と人間社会と自然環境がそれぞれつながりをもって風景を成している」と述べ、アジア文化の自然に対する畏敬や謙虚さに密接に関連すると強調した。
そのうえで、日・韓・台の鎮守の森の風景と、開発のなかで融和をもって森が保存された事例をスライドで紹介した。日本に関しては道路拡張計画で伐採されかかった福井県・貴船神社の神木を守った運動の経験を話し、「何百年も土地を守ってきた風土が一瞬にして消えてしまうことの意味を考えてほしい」と呼びかけた。さらにアジアの樹相の資料化を目指して鎮守の森の図鑑を製作中と報告し、「人間社会と自然は対立するものではない。命のつながりとして再認識していければ」と語った。
「人間の心の中に〝森〟を作れば自然も回復へ」 畠山氏
基調発題(2)では畠山氏が「牡蠣の森――それは室根神社からはじまった」と題して話した。「森は海の恋人」をスローガンに掲げて荒廃した気仙沼湾を甦らせるため、湾内に注ぐ大川上流に森を作り育てる実践をしてきた経験から「人の意識、人の心の中に森を作れば自然は回復する」と語った。
牡蠣を育てる漁民でもある同氏は、大川源流・室根山にある室根神社の祭礼神役のうち、漁民が海水を汲んで神社に捧げ、塩で神体を清める役のあることを紹介。「昔の人は森と海をつなげていたのではないか」と話し、下流域と上流域の感謝しあう関係を重視して、沖から見える山々に木を植えることで海や子孫の未来に希望を与えることができるとした。
「ふるさと作り――土に根ざした援助活動を」 中野氏
基調発題(3)では中野氏が「日本発信の国際環境協力」に関して、財団法人オイスカの海外協力活動について紹介・説明した。「人づくり、村づくり、森づくりは、すなわち、ふるさとづくり」とした同氏は、自助努力のできる人と地域の形成に寄与する協力と助成こそが重要だと指摘した。また植林や草刈、苗作りなど海外協力に従事する青年たちを育成・派遣した経験から「体験や実感に勝る教育はない」と主張し、日本においても「富士山の森作り」を始めていると報告した。
さらに中野氏は「自然に勝る教材はない。土から離れない活動が大切」「土とはふるさとである。そこには先祖が涙や汗を流して生き、また継承してきた伝統文化がある」などと語り、日本の「うぶすな」「むすび」の思考がポイントになるとまとめた。
続く第二部「パネル・セッション」では会場の参加者も含めて質疑応答が行なわれ、第三部「クロージング・コンサート〈希望の門出に寄せて〉」ではソプラノの薗田真木子さんが、本会の来し方と、今後の更なる発展に思いを馳せながら、「この道」「雨降りお月さん」「川の流れのように」などを熱唱した。
シンポジウムに続いて会場・秩父神社の平成殿に移って祝賀レセプションが催された。冒頭、協賛の埼玉県神社庁を代表して庁長の中山高嶺氏(三峰神社宮司)が挨拶後、井上久氏(埼玉県神社総代会会長)の発声で乾杯し、参加者は思い思いに懇談した。