日中食文化考 五月下旬に、定例の講義のために杭州にでかけた。今回は、浙江工商大学日本語言文化学院の教員と院生のために「日本人の宗教生活」をテーマにした特別講義と、学部生のために「日本人の食文化を考える」と題して映像を交えて講義した。
日本の食文化が「素材」にこだわりながら「おいしさ」を追求し、和食、洋食、中華、そしてハイブリッド食にまで多様化してしまったのにくらべ、中国ではまだまだ、伝統の食文化を守っている。たとえば、「なまもの」は極力避ける。生卵は決して食べない。私たち日本人にはなじみ深い「たまごかけご飯」など、もってのほかだ。スキヤキはご馳走でも、生卵をとかして具を入れるのはダメである。生野菜のサラダもまだなじみがうすい。かなり以前に、私宅に中国人の女子留学生を預かったことがある。妻は栄養が偏らないようにと、若い女性が好きそうなサラダをふんだんに用意した。ところがその学生は郷里の母親に「梅田さんのうちでは生の野菜を食べさせる」と訴えた。驚いた母親が我が家に国際電話をしてきたことで、私たちは初めて彼女が毎日、辛い思いをしていたことを知ったわけである。
中国生まれで日本育ちの食事の典型は「ラーメン」だろう。この日中ハイブリッドの食文化は、ご当地名をつけられて、日本列島どこに行っても食べられる。ラーメンと中国の麺とは微妙に違い、日本人にはラーメンが口にあうようだ。
前にも書いたが、私の杭州滞在中は、院生や教員が交代で食事を付き合ってくれる。お昼は弁当でもいいよ、といっても必ず温かい食事になる。理由は、中国人にとって、客人に冷たい食事を出すのは、大変な失礼になるということなのだ。たとえ自分たちは弁当であっても、招待した人には必ず温かいものを用意するのが礼儀であるという。
今、中国でも、食文化に変化が起きているのは確かだ。アメリカ産のファーストフードの店はいつも満員だし、定額で食べ放題、飲み放題のレストランが繁盛している。刺身も鮨も好まれはじめている。それでもやはり、広東とか四川とかの伝統料理にはこだわっている。
たまごをかけた白いご飯を貴重な食事として成長した中高年世代の日本人のひとりとしては、世界じゅうの食事を日本ナイズして食べられる飽食の国、日本の食文化を、この際、見直してみる必要があると思うのだが、いかがであろうか。
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