神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
神道展示館訪問 : 明治神宮宝物殿・宝物展示室

御祭神の御心と明治のこころに思い馳せ
   近代国家建設に邁進した時代

 近代国家の建設にあたり常に国民の先頭に立たれた明治天皇。仁慈の心で慈善事業に手を差し伸べられた昭憲皇太后。明治神宮は、その両御神霊を祀りたいとの国民の熱誠により、大正九年に創建された。今も多くの崇敬者が両御祭神の御聖徳を仰ぐ。同時に、都心の喧騒を忘れる広大な神域の鎮守の森は、人々の心に安らぎを恵み続けている。
 境内北方にある宝物殿の竣工開館は神宮創建の翌年。正倉院の校倉造を模した「校倉風大床造り」。わが国の鉄筋コンクリート建築として初期の代表的な建物で、都の「歴史的建造物」に選定されている。森と芝生の緑、新宿副都心の高層ビル群を背景に、見るからに堅牢優美、どっしりとした構えをみせている。
 一方、別館ともいうべき宝物展示室は平成九年、境内でも表参道に近いところに新しくできた明治神宮文化館の中にあり、御祭神ゆかりの品々を展示する。
  ◇ ◇
 宝物殿の陳列収蔵品は当時の宮内省から下賜された御物を中心に、その後の奉納品まで約数千点に及ぶ。両御祭神が使用された机や文房具や箪笥などの調度品、書籍や装束、ご乗車の馬車が展示されている。質素・勤勉を旨とした御日常と慈しみの御心が知れる。
 同神宮の宝物殿担当者は「あの時代がなかったら今の日本はない。近代国家の礎、明治時代の意味を理解していただければ」と話す。維新後の為政者は天皇の権威を利用して国民を昂揚させた、などという人もいるが、「明治天皇さまの御聖徳を国民も分っていたからこそでしょう」と担当者。「だからこそ国民も近代国家の建設に邁進した。でなければ当神宮創建の声も沸き上らなかったし、造営のための献木や、青年団の勤労奉仕もなかったはずです」
 ときに緊張を伴いながらも国民一丸となって勇躍の道を目指した時代。明治天皇の御心と「明治のこころ」に思いを馳せることができる博物館である。

今秋の特別展は「近代日本画の系譜―〈歴史画〉の継承者」  宝物展示室で

 宝物展示室では毎春秋に特別展を開いている。今年は神宮外苑の奉献80年に当たることから、外苑の聖徳記念絵画館を飾る壁画(御祭神の御事蹟と同時代の歴史事象を描いた80点)に因んだ特別展を催している。同壁画は近代絵画を代表する画家76人が手がけたもので、時代考証も綿密な名作揃い。春は「洋画」を主題とした開催だった。
 今秋の特別展では「日本画」に焦点を当て、「『小堀鞆音と近代日本画の系譜』―勤皇の画家と〈歴史画〉の継承者たち―」を予定している。明治大正期、画壇と美術教育界の重鎮として活躍し、歴史画の正統を継承・普及した鞆音に焦点を当てつつ、歴史画の系譜を総合的に紹介する。勿論、鞆音も聖徳記念絵画館の壁画事業に関わり、自らも画筆を執っている。会期は10月21日から12月3日となる予定。時間や料金等は通常通り。


▼東京都渋谷区代々木神園町1-1(明治神宮境内)
▼電話03(3379)5875〈宝物展示室〉
▼午前9時から午後4時半(11月から3月は午後4時閉館、入館はそれぞれ閉館30分前まで)
▼宝物殿・宝物展示室の共通券。一般500円、大学・高校生200円、中学生以下無料
※宝物殿の開館は土・日・祝日のみ(ただし新年や春・秋季大祭期間、明治天皇祭、昭憲皇太后祭は開館)


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