神道国際学会会報:神道フォーラム掲載

From Abroad - 外国人研究者紹介
ルチア・ドルチェ博士


ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)助教授
同学院日本宗教研究センター所長


日本中世の複雑な宗教状況―― その実態解明に成果

「儀礼」を新たな視点に更なる研究へ

    立命館大学の招待で現在、9ヶ月間の予定で滞日中。このほど、「同大学 世紀COEプログラム」と「ロンドン大学SOAS日本宗教研究センター」共催による国際シンポジウムを、日本学術振興会も巻き込んで企画・運営した。ほかにも研究機関や研究者らとの会合、出版社との打ち合わせ、専攻である日本中世の宗教・思想の調査……。その合間にも「日本宗教研究センター(CSJR)」のことが頭を離れず、電話やメールでロンドンに連絡や指示を送る。超過密な滞在スケジュールをバイタリティーでこなしている。

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    イタリア生まれ。ベネチア大学で東洋・日本の宗教思想を専攻し、オランダのライデン大学で日本思想に関する論文により博士号を取得した。この間、上智大学に留学し、さらに中世仏教の研究のため立正大学に籍を置いた。1998年、ロンドン大学SOASの中にCSJRが開設されるとともに招聘があり、渡英し現在に至る。東京大学や早稲田大学の客員研究員もつとめた。
     学生のころから思想・哲学を学んでいたが、西洋とは別の思想に興味が湧き、東洋研究に進んだ。やがて日本における思想・宗教、とりわけ中世の宗教と文化を専攻。日蓮における法華経の解釈に密教的な要素を見いだすなど、教学的な視点に縛られない思想実態の解明に学術成果を上げている。2年前、これらの研究により、若手・中堅の宗教研究者に贈られる「中村元賞」を受賞した。

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 「そもそも日本の前近代における宗教状況は、宗派の純粋な教理で区分することはできない。中世の各派神道もそうだし、端的に言えば、いわゆる神仏習合でしょう」
 中世で興味深いのは末法思想の影響に続き、日本は末法でありながら仏土、神国であるという世界観が生れ、神と仏のいる国としてのアイデンテティが発生したことだという。そこでは、王権や武士や仏教寺院などが複雑に絡み合っているため、宗教だけでなく多方面からの解釈が必要だと主張する。
 「最近、関心を持っているのが『儀礼』ということです。文献としての中世の史料や、現象としての祭祀祭礼を見ていると、『儀礼』が浮かび上がってくる。中世宗教の解釈上、矛盾な点が一杯あるのに、『儀礼』を中心に考えると新しい見方ができる気がします」
 社寺に埋もれ、研究に手の回らなかった諸史料群の再調査にも参画し、新たな視座から中世に研究の光を当てようと考えている。

SOAS日本宗教研究センターの充実にも尽力

 CSJR設立にあたって本会は全面的に支援した。CSJRでは研究推進とともに毎年国際ワークショップを実施し、月に数回のペースで公開講演会を催すなど、日本宗教に関する知識の普及に努めている。
 「日本宗教研究は世界的にみて、まだまだ量の少ない分野。その点、CSJRはこの方面の研究に力を入れ、SOASの学部において修士号を取れるなど貴重な存在です。資金難など課題もあるけれど、若手研究者の育成も含めて充実を目指したい」と意気込みを見せている。


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