神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
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神 国 論 は 今 日 の 課 題
 ―シンポジウム「神国論の系譜」を聴講して―
                    S・T生 記

 昨年12月2日午後、東京渋谷の國學院大学2号館104教室において神道宗教学会第60回学術大会シンポジウム「神国論の系譜」が催され、聴講する機会を得た。
 基調講演は、テーマと同名の著書を上梓された(法蔵館・本年五月)同大栃木短期大学教授の鍛代(キタイ)敏雄氏。
 講演のスタンスは、御著書と同様に「神国という言葉に禁欲的に限定して、通史的時系列的に史料を並べたもの」(冒頭発言)であり、氏の専門である中世を中心に、コピー配布21点等延160点を超える膨大な史料に言及紹介、神国論の「政治的な面を強調」(講演より)しながら、詳細に分析された。
 第一部「神国論の成立と展開」では、院政期における、院の身体と王権への神明の加護祈祷や、八幡大菩薩を百王の祖とする王権神祇神話が、神国の概念形成に預かり、本地垂迹説を背景とした神仏同体論、仏教的劣等認識等が、神国的救済観に繋がる等を指摘。鎌倉期には、朝廷対武家の葛藤等体制内の動揺が神国論をも興隆させ、蒙古襲来という国難を迎え、「宗教界は、神国を喧伝することにより、国家の安全をあらためて宣言する」(講演より)という神国安全神話が確立した、とされた。
 第二部「神国論の変容」では、室町から戦国という大動乱期に焦点が当てられる。足利義満による朝貢貿易、その中止と復活の際の外交文書での神国観念等を挟みながら、神国日本という特殊国家・優越国家理念の確立、北畠親房の役割、吉田兼倶に至っての「神皇から百姓に至るまで神明の後胤」という神孫後胤説等が「列島上の神国グローバリズムを準備する観念的な土台」(講演レジュメより)を新たに構築したと鍛代氏は話された。
 第三部「天下人と神国」では、信長秀吉家康の三人が、いずれも神として祀られるようになった背景が探られる。当時の武将には、神化の傾向が既にあったこと、戦の勝利と権力の獲得に従い、本人も周囲も神性付与の道を拓いたこと、信長秀吉は、ともに中国皇帝とくに漢の高祖をモデルとしたのではないか、さらにキリシタン禁制のなかでの神国、家康の時代については、天の思想や儒教との関係、正直の概念等にも触れ、天下人の人霊祭祀は、「近代天皇制共同体国家の歴史的前提」(講演より)ではないかと論じられた。
 コメンテーターの白山芳太郎教授(皇學館大学)は、神国論の成立等について、詳しいコメント4枚を用意され、北畠親房をもってその祖とすることの不適切等について具体的に指摘。同じくコメンテーターの安蘇谷正彦國學院大学長は、大意「歴史学者が史料文献制度等に依拠するのはよいが、神や神国を論じる時、祭りを通しての敬神の思いを踏まえなければ」等の指摘をされた。
 後半、会場との一問一答に移り、高橋美由紀東北福祉大学教授、西岡和彦国学院大助教授、平野孝國新潟大学名誉教授、岡田荘司國學院大教授(発言順)ら斯界の第一人者が次々にマイクを握られ、高校教諭や神職の方々等も加え、重厚な論議が繰り広げられた。
 最後に、司会に当たられた三橋健國學院大教授が、大意「神国論は、途についたばかり。今後、学問的に更なる進展が求められ、本シンポジウムが、そのバトンタッチになれば」と締めくくられた。
 鍛代氏の著書については、「神社新報」紙本年12月4日号書評欄でも大きく取り上げられている。また、同様のテーマを扱った佐藤弘夫東北大学教授の近著『神国日本』(ちくま新書)について、本シンポや同書評でも言及があった。
 私は当日、鍛代氏のさわやかな人柄を感受でき、眼前に展開する歴史のパノラマに圧倒される思いだったが、最も印象的だったのは、氏が講演冒頭、「神国論に興味を抱いたのは、平成12年の森総理の神の国発言問題」と述べられたことであった。
当時、総理発言を、「神々の国」と言い換えるだけで、世の非難の大半は凌げると直言すべく、諸々努めたことが想い起された。
 今回、あらためて発言全文を読み直し、「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国」という、神道人としては基本中の基本があれほどの騒ぎを起こしたこと、また、オンラインに見る反対派の激越な論旨を読むにつけ、わが国にある、例えようも無いほど深刻な亀裂を思わざるを得なかった。
 神道志人ならば、「日本は神国である」という命題を、「皇統一系」と同様に堂々と主唱し、相手方の共感は無理としても、それなりの理解をさせねばならない。それには、原始から現代に至る歴史の荒波をくぐり抜けて、なお一本に繋がる絆を掴まねばならない。アカデミズムの考究を学ぶのも、畢竟そのためではないか、と本シンポジウムを通じて深く思った。
 そして、事実と論理を超える、「心眼」あるいは、「信仰」とでも呼ぶしかない何かが、そこには必要なのでは、と思う次第である。

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