第17号 9月15日刊行 神道国際学会会報:神道フォーラム掲載 |
From Abroad - 外国人研究者紹介 リュドミーラ・エルマコーワ氏 神戸市外国語大学教授 |
和歌は古代信仰や儀礼の機能と役割を引き継ぐ 「神道を研究するなら、宗教的にはもちろんですが、文学的なところからアプローチすることもできる。近づく道はいろいろあります」 日本宗教論も研究テーマの一つだが、専門は日本古代のフォークロアと神話、和歌や歌論と神話との関係であり、比較文学・比較文化である。 「文学が成立する以前、信仰やフォークロアの場面、あるいは儀礼の場で唱えられる言葉や歌は神々とのコミュニケーションの方法であり、魔術的な力を持ったものでありました」 それは文字が入る前の歌謡の世界であり、言霊の世界であるが、やがて文学や文章化された和歌の段階になると、機能の多くの側面は文学的な意識のなかで大きく変化、あるいは分断されていく。 「しかし同時に、他国の古代文学と同様、日本の和歌は、宗教的意識、儀礼の要素などを保ち、文章の段階でも古代的信仰と多様なつながりをもって継承されていくのです。その意味で和歌はフォークロアの世界からの多くの遺伝的要素を持っているのです」 そうした文学的な世界と神話的な世界の結びつき、和歌と古代世界のつながりに関心を寄せ、他地域の文学との比較によって、日本文学、日本文化の特徴を研究してきた。「古事記」「日本書紀」の歌謡、古い祝詞、古の天皇の宣命……。古典のなかに信仰レベル、思想レベルでの世界観がいかに現れているか、綿密な解釈を続けている。解釈とともに翻訳作業も多く手掛け、とくに「延喜式」の祝詞、「続日本紀」の宣命、「古事記」中巻、「日本書紀」巻1〜16のロシア語訳は画期的な業績となっている。 日本滞在は10年を超えた。今後の研究活動の一つとして、自ら翻訳した「日本書紀」「倭姫命世記」「大和物語」の改訂作業などを挙げる。「古代神道の世界と和歌や平安初期文学のつながりをもっと深く表したいので、10年間の研究による新しい解釈をもとに書き直しに着手したい。また、その輝かしい時代の神信仰に関わる他の作品も翻訳したい」 モスクワ生まれ。モスクワ国立大学付属東洋語大学で日本語、日本文学を学ぶ。ソ連科学アカデミー東洋学研究所大学院にすすみ、修士号さらに博士号を取得した。同研究所で研究を続けるかたわら、「フードジェストヴェンナヤ・リテラトゥラ出版社」の東洋文学部編集者も務めた。ロシア(旧ソ連)科学アカデミー東洋学研究所極東文学課長、国際日本文化研究センター(京都)客員教授などを歴任。立命館大学、岡山大学、龍谷大学の非常勤講師を経て、1999年から現職。 早くから日本に興味を持ち、一貫して日本語、日本文化を専攻してきた。「母が日本語を勉強していて、家に日本語の辞書があったのです。それを開いて、子供心に漢字のかたちに憧れていたのですね」 文学少女だった。「そして和歌の世界が私に飛び込んできた。日本への道はやはり和歌だったのです」 |
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