第18号 11月15日刊行 神道国際学会会報:神道フォーラム掲載

伝統をささえる

   須藤英男さん・古澤武雄さん
和生菓子・干菓子の「里見屋」(東京都墨田区菊川)

社寺のお供物 落雁は和菓子職人の手作り

肌理(きめ)、色、そして舌触り……

 神社の御紋菓として、あるいはお彼岸やお盆にお寺から、御供物の「落雁(らくがん)」をいただいた人は多いだろう。
 この落雁に代表される干菓子や、和生菓子、葛湯などの製造卸・小売を営む。とくに、落雁を専門にあつかう店は、都内ではここ里見屋だけといってもいい。
 「伝統的に需要はあっても、古くからの製法で専門的に作っていこうという業者が少なくなってしまった、ということでしょうね」
この道数十年、親の代から落雁づくりを継ぐ古澤さんは、網板に並んだ落雁を最終点検しながら、そう話す。
 そばで里見屋の社長、須藤さんも、「日本はやっぱり米文化。それを忘れず、昔は菓子でも米を使った落雁を作っていたんですよ」と口を揃える。「結婚式でも引き出物に紅白の落雁は付き物。今は好きな物を選べる商品カタログですからね。実用的だけど、それはちょっと違うだろ、と」

◇   ◇

 味甚粉(みじんこ)という餅米の粉に砂糖と水飴をもみ混ぜ、攪拌する。そして木型(きがた)に詰める。「なんといっても湿気には神経を使います。水分で粉の締めつけ具合が変わってくる。冬は乾燥するし、梅雨どきは湿るし」と古澤さん。火で水気を飛ばしながらの仕上げになる。「湿気を吸うと日持ちがしないんです」
一方で、やや大きめの木型で作るアン入りも。「しっとりしたアンコが入って、滑らかで、いわゆる和菓子的な感じでしょ」と、須藤さんが見本の落雁を割って見せてくれる。
 祭シーズンや彼岸などは特に繁忙だが、基本は手作業だ。古澤さんは「粉と砂糖がきめ細かく、均等に混ざっているか。見た目にも模様や色が綺麗に出ているか。いいものを造るには、長年やっていても、試行錯誤ですね」
 食料品メーカーが片手間で造ったものにはない舌触り、上品な味……。問屋、和菓子屋と経由し、御供物として里見屋の落雁を口にした人が感激し、逆をたどって問い合わせてくることもあるらしい。

◇   ◇

 製造場の棚には、お得意さんである社寺や学校や法人の名称、神紋、校章、あるいは花鳥風月、縁起物などを彫り込んだ木型が500丁ほども積み上げられている。堅くて磨耗しない桜の木が一番という。
「この木型はいうなれば財産=v(須藤さん)という使い込まれた木型の堆積に、菓子文化の伝統が象徴されているかのようだった。


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