神道国際学会会報:神道フォーラム掲載

伝統をささえる

年間通して玄関を飾る「伊勢の注連飾り」

神宮を拝し、注連縄を綯(な)う職人たち


  正月に飾られる注連飾り。神宮のお膝元、伊勢の民家では注連縄を、年間を通して門口に飾る。飾りに付いた木札には「笑門」「千客萬来」などのほか、伊勢独特の「蘇民将来子孫家門」と書かれたものを多く見かける。
 ――伊勢で日暮れた旅中の須佐之男命を泊め、手厚くもてなした蘇民将来。この貧しくも心篤い蘇民に対し、命は病魔除けの茅の輪を編み、また「〈蘇民将来子孫家門〉と書いて門に貼れば魔を逃れる」と言い残して旅立っていった――。
 一年間飾られた注連縄は大晦日の祓えで燃やされ、新しい注連飾りで新年を迎える。

   ◇  ◇

  師走も間近、神宮楽師の岡茂男さんの案内で、注連縄飾り作りの現場を訪ねた。
伊勢市津村町の西村直蔵さん。母屋の裏の作業場で、株を石で押さえながら藁縄を綯っていた。
 綯うまえに、木棒で打っては柔らかくし、束ね揃える手間もある。藁は想像以上に青々としている。「9月の初め、茶色に色づく前に、一日勝負で刈る」という。
 穂の先端は手先で整える細かい作業。そして、「株の真ん中あたりは、ふっくらしてないとあかん」と西村さん。
 毛羽立った「ヒゲ」をむしり、縄から下がる「アシ」を5束、掛ける。これに後日、木札やサカキ、ユズ、ウラジロ(シデ)などを取り付ける。
 ほとんど素手での作業だ。藁打ちを側で手伝っていた奥さんの博子さんは「縄綯いほど手の荒れる仕事はあらへんで」
 大小合わせて500ほどの注連飾りが並ぶ。これでも西村さんのところは小規模という。だが、「縁起物だけに、いつも同じところから買う人が多い。師走の良い日を指定してくるからね。みんな待っとるんや」と、追い込みに入っていた。

    ◇ ◇

 岡さんの車で注連飾り職人の本場、伊勢市に隣接する玉城町に移動。車中、岡さんは「横一文字の縄は右が株元、左が穂先というのが全国的。でも伊勢では株元が左になっているんです」
 その謎を聞くために、玉城町中角、糾p谷産業の角谷泰さんを訪ねる。
 こちらも大きな注連縄を綯う機械をフルに動かしながら、師走に向かい、走っていた。「注連飾りも季節によるキワモノですからね。大変です」。そう息を切らしつつも角谷さんは「神様に関わるものですから、製品を作っているという意識ではダメ」と言い切る。
 そして「株元と穂先の左右が違う? それは天照大御神をお祀りする伊勢では、大神のます神宮の方向をはばかって、株元を逆にしたんですよ」
 神都・伊勢ならではの伝統がここにも息づいている。
Copyright(C) 2008 SKG all rights reserved
当ウェブサイト内の文章および画像の無断使用・転載を禁止します。