神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
神道研究羅針盤 : 櫻井勝之進氏に聞く
学校法人皇學館常任顧問 元神社本庁総長

祭り研究は社会的な関係論
 ――先入観を排し土地の生の声を聞け


日本の神様は共同体の権威
 私がやってきた神道研究というのは神社と祭り、つまり神道の性格が一番はっきり表れる部分です。
 祭り研究というのは結局、社会的な関係論ですね。どのような祭りが生まれるかは、そこの社会、共同体、コミュニティーの性格との関係によります。もともと日本の神様というのは共同体の権威そのもの、共同体という社会から生まれたものなのです。
 共同体というのは個人を超えた一つの権威を持っているので、共同体の意思に背くと罰せられ、従えばみんなが助けてくれる。権威なるものが慈しみも戒めも与えるとはそういうことです。そして日本人はその権威を尊敬して神と名付けたわけです。
 ですから日本人が普通にいう神様というのは村の神です。氏神さんとか、鎮守さんとか言いますが、昔は血縁の者が集まって一村を作っていたから共同体の神は同時に氏の神だった。農村に行けば行くほど共同体の結びつきが堅いのは氏神さんが純粋に氏の神だからです。
 やがて商売する人とか、興行的な人とか、色んな人が入ってくると氏神さんに商売繁盛を祈ってご利益信仰になったり、個性的なものになってくる。
 しかし、町内安全・村内安全つまり共同体を守るための一面と、個人の個性によるご利益信仰の面と――いずれにしてもその地域の社会的な性格に応じた要求というか要請であることに変わりはない。
 都市はどうかというと、個人個人がバラバラと思われるが、不思議なことに存外そうではない。お祭りを見れば分かる。「よそ者はうちでは間に合ってるわい」といった感じです。普段はろくに挨拶もしない利害相反するような人たちが祭礼となると団結し一体化する。地域社会性というものが大都会にもちゃんと生きている証拠です。それが祭りの時に発揮されるわけです。

社会の性格を調べる
  大陸との関係を考える

 そう考えていくとやはり祭りの研究というのは社会的な関係論ということになります。だから実地踏査というものを最重要視する。土地の古老に生の声を聞くわけです。先入観に囚われず、どこまでもまっすぐに素直に聞く。先入観が入って、早急に概念化すると独りよがりの自分流になってしまって、土地のものにならない。土地の声を生で聞いて、生で受け入れる。すべてはそこから始まるのです。
 そして社会の性格をよく調べることです。祭りなり信仰を伝承している当の社会を抜きにして神社研究はできません。
 もう一つ加えるなら、神社やお祭りの中にはアジア大陸の文化的な要素が否応なしに入り込んでいる場合があるので、一寸これは不思議な現象だなと思うものは、大陸の古典を調べるなど広い関係論に目を向けることも必要になると思います。




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