五年連続の挑戦――
幼少からの憧れつかむ
陸上競技の経験活かし
「完璧な走りができたと思います」
400mハードルで関西の学生ランキング1位を誇る陸上選手はVサインを作ってみせた。ハードルで養った脚力はもちろん、歩数合わせ、スピード調整、カーブ回りの勘も活かして「一番福」を射止めた。
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商売繁盛えべっさん≠フ総本社、西宮神社(兵庫県西宮市)で行なわれる正月十日(本えびす)の「開門神事福男選び」。一般の進入を許さない厳かな大祭が終了した午前六時、大太鼓を合図に表大門が開くと、2500人もの参拝者が一気に本殿まで「走り参り」する。初参りの1番から3番までが、その年の「福男」に認定される。
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平成16年の初参加では走路妨害されて「二番福」。翌年から混乱に備えて先頭集団108人を選ぶ抽選ルールに。五年連続の挑戦となった今年――。
「二列目真ん中からのスタートを抽選で引いて、思いっきり飛び出だせた」
勝手を知った地元のお宮。まず右斜めを意識しつつ直線70メートルを疾走。「ここで一気にトップに立つのが重要」。続いてのえびす坂≠フ石畳は「地面を叩くように慎重に。滑る人が必ずいるんです」。スピード調整しながら、やがて本殿に向かうコーナーは「内側、内側へと走るように」。270mを走り抜け、本殿前へと駆け込んだ。
「『一番福、やっとなれたなぁ』と、神社関係の顔見知りの人から声をかけてもらいました」
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総参加者とともに抽選希望者も年々、急増。だが、抽選に外れて後方スタートになっても毎年、「走り参り」は欠かさなかった。
「気持ちを切り替えて、一年間、取り組むべきことは、ちゃんとやって、年の終わりに結果が出れば、それも『福』だと思います。自分にとっても、周りの人にとっても」
その前向きの姿勢が、ついに「一番福」を呼び込んだか――。
陸上部の仲間、友人や親戚からの祝福が絶えない。そして誰よりも神社近くで天ぷら屋を営む両親が喜んでいる。
「親の店の商売繁盛になればと、小さいときから『一番福』に憧れていましたから」
今年から「福男」に神社から贈られることになったオレンジ色の法被は今、両親の店に飾られている。
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4 月から4年生。中学時代からの陸上生活も最後の年。関西インカレ、全日本インカレ――と競技シーズンに入る。「悔いの残らないよう走りきりたい」
平行して就職活動も待っている。「『一番福』だからと調子に乗らずに頑張ります。もちろん就職が決まったら、仕事も気持ちと気合いを込めてやっていきます」
青年「福男」は、新しい世界に向けてスタートを切ったばかりだ。
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