神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
伊勢本街道を歩く (2)  奈良まちにて
吉井貞俊氏

   奈良はこのごろ町屋が軒を並べているという風情を売り物にして人気を得ているが、この街、実はこゝのマチそのものが單独に形成されているのでなく、街道筋の一單位として成り立っていた。この歴史的な経過を念頭にして奈良まちの復原を試みたら一層幅の広い奥行きのある姿となるのではなかろうかと思われる。その昔、実際歩いて参宮をした老人の話を聞いた事がある。それは既に汽車は通じていたが、年々の習慣としてムラの代参に全コースを歩いていったとの事、地形的に考えると大阪の人々は現在近鉄線が通じている斜めのコースを歩いてゆけば少しでも伊勢への道は短くなるはずなのだが、それはしなかった。つまり一生に一度の大旅行であれば奈良へは立ち寄ってゆきたい気持ちを捨て切れぬわけ、それでいて奈良で滞在はせず、伊勢へ向かったとの事。だから現在の奈良町復原もそういう貴重な人の心が籠もっている気持ちをこめて作り上げればもっと重みが加わるであろう。
(絵・文とも吉井貞俊:絵は本誌に掲載)

 本会会員吉井貞俊氏は現在、兵庫県西宮市に在住し、西宮文化協会会長をしているが、もともと伊勢の出身で、猿田彦神社の社家である宇治土公家に出生した方。氏はその因縁をもって、昭和48年の第60回正遷宮の際、大阪から伊勢まで伊勢参宮本街道を踏破し、さらに平成5年の61回の時にも同じ道筋を歩いたと聞いている。
 そして現在、次回の正遷宮を目ざして、3回目の本街道歩きを始めたとのこと。

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