神道国際学会会報:神道フォーラム掲載 |
新進・気鋭 毛 利 美 穂 さ ん 大手前大学非常勤講師 |
『日本書紀』の東アジアにおける位置づけ 漢籍の影響や民俗事象にも焦点あて 古代文学が専門。とくに『日本書紀』の研究が長く、さまざまな視点からのアプローチを試行してきた。大学院の博士課程以降は、『書紀』を上代日本という時空に閉じ込めるのではなく、記述された民俗事象の後世への影響を見いだし、さらには東アジア世界における『書紀』の位置づけなどにも注意を払ってきた。 「神話、歴史として『日本書紀』が作られた。そこには作った人間の意図が込められているはずです。天皇像、民俗…さまざまな記述のなかに、彼らの思いを探っていきたい」 『書紀』には、天命思想など漢籍からの影響を受けつつも、それらを日本の立場で咀嚼し、日本的に表現していった部分があるという。「受容だけでなく、東アジア世界において何かを発信しようという、双方向的な文化交流の背景が感じられる。国際的なコミュニケーションの実態という視野の広がりに惹かれます」 漢籍との比較研究のなかで、民俗学や道教の世界、とりわけ本草学などにも関心を深めた。葛洪の『抱朴子』から入り、中国思想の漢籍を集中的に読み込み、京都大学では文献調査、特に江戸時代の文献に親しんだ。 「医術、祭事、食などの分野は基本的な生活に密着しているので、今にまで残りやすいのですね。たんなる文章の解読だけでなく、史料や文献を見ていく楽しさが、そこにはあります」 今後は、往古の人々の生活と哀歓を浮かび上がらせるべく、『万葉集』をはじめ、『書紀』以外の古典にも取り組む計画だ。 「文学専攻ではあるのですが、どこかに民俗への関心がある」。興味を持ったら常道でなくとも躊躇なく研究を進められるのには、故・米山俊直氏(京大名誉教授や本会・副会長などを歴任)がかけてくれた言葉が大きいという。「先生はいつも『その視点も面白いよ。オーソドックスな方法でなくても、やってみたらいい』とおっしゃってくれました」 民俗学といえば、高校のころから折口信夫の著書に熱中。また、田辺聖子訳の『源氏物語』などで平安王朝のみやびにあこがれ、井上靖の『額田女王』で古代世界に惹かれた。文学志望は少女時代からだったそうだ。 |
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