神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
日々雑感 :梅田善美理事長


 初夏の鎌倉に日本の心

    さる6月7日(土)、鶴岡八幡宮の蛍放生祭(ほたるほうじょうさい)にお招きを受け、鎌倉に赴いた。午後7時、舞殿にしつらえられた神饌案には数個の蛍篭が供えられていた。舞殿に向かって東西に招待者のための特別席がもうけられていて、私たちが案内された東側には鎌倉市長をはじめ、ミス鎌倉や地元の人々に加えて、外国人の顔も数多くみられた。今回の祭事を各国大使館に知らせたところ、多くの参加希望が寄せられたという。西側の席には鶴岡幼稚園児「鶴の子」が詰めていた。蛍の幼虫とえさとなるカワニナを流れに放ち、蛍を育ててきた「鶴の子」たちである。
  午後7時、薄暮のなかで厳かな祭典がはじまった。神楽舞「萬世の舞」が静かに舞いおさめられるころには、広い境内はようやく夜の気配。斎主につづいて神饌案から降ろされた蛍篭を捧持した奉仕員が蛍を放生する「柳原神池」に向かう。東西の桟敷に座っていた招待者や園児たちも、行列を組んでそれにつづく。
   やがて、境内の明かりが一つずつ消えていき、神池の中央に架かる橋の上で笙の音色にあわせて奉仕員たちが蛍篭を開くと、蛍がいっせいに森に飛び立ち、ほのかな光の饗宴が始まった。まさに幻想の世界。あちこちで「ああ、光ってる、飛んでいる」「きれい、素晴らしい」という人々のひそやかな歓声が聞こえた。生い茂る草木の間でかすかに光る蛍、見る人の心に深くしみいる光景である。
    祭後の直会であいさつに立たれた吉田茂穂宮司は「5年前から柳原神池の自然環境を整え、埼玉で発見した鎌倉のDNAを持つ源氏蛍の生息できる環境を作る努力を続けてきた。この放生祭は、神前にお供えした蛍を神池に放つことにより、生命の尊さを思い、神に感謝をお伝えする行事である」と話され、「今夕は、東京の各国駐日大使館の方々が大勢きてくださったが、この行事により、日本の心を理解していただくことを期待している」と強調された。
    事実、私が言葉を交わしたロシア大使やスウェーデン大使、ドイツの参事官などは、神道文化に籠る自然への畏敬を感じたと発言されていた。神道国際学会も国連NGOとして、昨今の世界的な環境悪化をおおいに危惧している。そんなときに、石や木炭等を用いた自然ろ過による水質浄化など、まず手近な環境の美化から始め、地元の子どもたちをも巻き込んだ鶴岡八幡宮の目のつけどころのよさに感服した。多くの神社仏閣で放生祭(会)が行われているが、鶴岡八幡宮の蛍放生祭は時宜を得た神事といえよう。


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