7月に開かれた北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)に合わせ、宗教者からの提言をまとめる平和会議「G8宗教指導者サミット」(会長=出口順得・四天王寺管長)が6月27日から3日間、大阪と京都を舞台に開催された。テーマ「地球と生きる」のもと、32カ国・地域から約120人(代表)の宗教者が集い、三分科会(「自然と生きる」「民族と生きる」「アフリカと生きる」)および全体会議で議論を重ねた。
最終的な提言では、地球環境の課題克服に肝要なのは「人類の心の問題の解決」と強調。多様な宗教観を取り入れた「新たな産業経済社会の構築」の必要性を訴えた。また近年、複数地域で民族や宗教への弾圧が起きていることに対し「国連の人権宣言の精神に反する」と非難。さらに、諸課題を抱えるアフリカ地域への支援策にも触れた。
提言は宣言文にまとめられ、洞爺湖サミットを前に、首相官邸に渡された。
なお「G8宗教指導者サミット」では、神道国際学会常任理事でもある三宅善信・金光教泉尾教会総長が事務局長を務め、会議推進と運営に尽力した。
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また、7月2、3両日には世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会(理事長=庭野日曠・立正佼成会会長)の主催する「平和のために提言する世界宗教者会議〜G8北海道・洞爺湖サミットに向けて」が札幌市で開かれ、「共有される安全保障」をテーマに、政治レベルで議論される課題に対する宗教者としての意見をまとめた。23カ国から約300人(代表百人)が参加した。神社界では矢田部正巳・神社本庁総長(日本宗教連盟理事長)らが出席した。
全体会議などを通じて提言書がまとめられ、「環境・気候変動」「ミレニアム開発目標」「核非武装」「暴力的紛争とテロリズム」の四課題に関する提言が盛り込まれた。
翌4日、代表らは首相官邸を訪れ、サミットを直前にした福田康夫首相に提言書を手渡し、人類福祉に向けた宗教者の決意を示すとともに、四課題における政治的行動を要請した。
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G8宗教指導者サミットに参加して感じたこと
モロジャコフ・ワシーリー
学術博士・拓殖大学日本文化研究所
客員教授
「地球と生きる――世界の宗教者からの提言」を主要なテーマにして、G8宗教指導者サミット(G8RLS)という世界各地から来日した宗教者の会議が、2008年6月27日〜29日の3日間、大阪・京都で開催された。この会議は主要8カ国首脳頂上会議(G8サミット)に対して宗教者からの提言を行うために開かれたもので、最初のG8RLSは、2006年にロシアで、第2回は2007年にドイツで開かれ、今回が3回目である。G8RLSに参加していた宗教指導者および宗教学者は、民間のレベルで人類の最も重要な問題を討論して、今年の7月7日〜9日に、北海道洞爺湖で開かれるG8サミットにあてたメッセージを作成することを目指した。筆者は、ISF(インターナショナル・シントウ・ファウンデーション)ロシア連邦事務所の代表者としてこの会議に参加した。
G8RLSの準備と実行は、一年がかりで、実行委員会とその事務局(事務局長・三宅善信師)をはじめ、日本の環境省、日本ユニセフ協会、日本ユネスコ協会連盟、関西国連協会、京都商工会議所等の組織や有名な神社仏閣が後援し、また多数の個人の援助により成功をおさめた。このサミットのために素晴らしく便利な会場を提供した大阪大学と同志社大学に対しても感謝の意を表さなければならない。日本語と英語の同時通訳も特に水準が高かった。
私にはG8RLSは歴史的なイベントだったと感じられた。開会式でのスピーチは普通の儀礼的な挨拶ではなく、全人類の問題を自分のこととして考えている政治家と宗教指導者の熱心なメッセージであった。サミット会長の出口順得師(四天王寺110世管長)、サミット名誉会長のサムデク・ノロドム・シリブド殿下(カンボジア王国前副首相・国王陛下最高枢密顧問官)、中山泰秀氏(日本国外務政務次官)等が心から発言したことは、3日間の意見交換の内容に深い影響を及ぼした。
参加者は200人を越え、そのうち海外からは32カ国47人で、仏教、神道、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、ヒンズー教、シーク教、新宗教を代表していた。ディスカッションの主要なテーマは、「自然と生きる」、「民族と生きる」、「アフリカと生きる」というタイトルにより、3つの分科会で討論された。分科会A「自然と生きる」が環境問題、特に地球温暖化を討論し、分科会B「民族と生きる」が民族の問題、特に多民族の闘争と平和的共存を討論し、分科会C「アフリカと生きる」はアフリカ大陸の問題、特に食糧・医療・教育の不足を綿密に討論していた。
分科会A「自然と生きる」の会議は、大学のキャンパス内ばかりでなく、住吉大社(大阪)と上賀茂神社(京都)の会議室でも行われたことは偶然ではなかろう。特に自然に近く、自然と人間を不可分とみなしている神道は「環境の宗教」とよく呼ばれている。ISF代表の半田晴久氏はその特徴を参加者に強く訴えた。
分科会B「民族と生きる」の会議は、最も国際的な場であったといえる。参加者は世界の各地を代表していたので、興味深く、意義深い対話が可能になった。意見の差異がこのパネルにおいて最も明白になった。最も激しい討論は、現在チベットの宗教・政治・民族情勢を中心に行われた。参加者の大部分は、自分の立場を明らかに発言して、意見を親切に交換したうえで今チベットに見られる闘争の問題は平和的に解決しなくていけないと結論した。
分科会C「アフリカと生きる」の討議は、「黒大陸」に存在する貧困の問題を中心としていた。数人がアフリカ諸国を代表していたが、その他の参加者が「貧困」という言葉をどこまで理解できるかどうか、が問題であった。そのため、サミット実行委員会と事務局は、参加者全員のために「大阪のどんぞこ」(スラム)として知られている「あいりん地区」の見学・案内を準備した。現在の日本にもこのような状態で生きる人間が存在することを自分の目で見たサミットの参加者はアフリカ貧困等の問題をより深く実感し、熱心に分析したと考える。
各分科会における発表、質疑応答、ディスカッションは例外なく熱心で、親切であった。多くの問題点で意見の統一を見ることは難しかったにもかかわらず、和解と相互理解への意志は初めから終わりまで明らかであった。このサミットに参加した宗教指導者および各分野のエキスパートたちは、自分の責任を深く感じながら、慎重に発言し、そのうえでG8首脳サミット宛のメッセージの文言を綿密に検討して作成した。
一方、新聞、雑誌、通信社などのメディアはこの会議の重要性を十分理解して、その行動を積極的に報道した。主要な反応は、次のホーム・ページwww.relnet.co.jp/g8/
で閲覧できる。私はこの会議の最も深い意味と意義は、今ではなく、将来にはっきりあらわれるだろうと思う。
この宗教者のサミットの雰囲気は特に友好的で、一つの大きな家族の集いであった。筆者自身は、旧友たちとうれしい再会を果たし、より大勢の新しい友人が出来た。世界的な問題の解決も個人レベルから始まるものなので、このような友情の結び合いが大事な成果につながるであろう。
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