神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
国際シンポジウム「体育としての武道の精神的・実用的価値」

国連「スポーツと体育の国際年」にあわせて

   インターナショナル・シントウ・ファウンデーション(ISF)と神道国際学会が共催する国際シンポジウム「体育としての武道の精神的・実用的価値」が7月7日午後、東京・神宮外苑の日本青年館で開かれた。今年は国連提唱「スポーツと体育の国際年」に当たることから、日本古来の武道の心身両面における価値を追求・啓蒙しようとの趣旨で企画された。国際連合広報センターおよびイスラエル、チュニジア、モンゴル、ポーランドの各国大使館、春風館武道道場が後援・協賛した。
   開会に当たって神道国際学会の梅田善美理事長が今シンポの趣旨と意義を説明。続いて、武道家としても造詣の深いエリ・コーヘン駐日イスラエル大使、神道など日本文化に関心を寄せるサラ・ハンナシ駐日チュニジア共和国大使が基調講演を行なった。
   講演にさきだって、春風館武道道場館長で居合道教士の鷲尾謙信師が、親交のあるコーヘン大使について「武術では普通と違う波動をハッと受け取ることが大切。大使はこのハッとした気づきと、その受け取りの方法に優れている。武道のみならず普段の生活や仕事の中でも一瞬にして行動を変えていくことのできる鋭い人物だ」と評した。
   紹介を受けて登壇したコーヘン大使は、「武術がスポーツに転換すると、武道必須の誇るべきものが失われるかもしれない」としながらも、武道を求める新しい世代が生まれていることや、多くの人が世界中で武道に取り組んでいることなどから、武道の正しい認識と体育への貢献が向上する可能性に期待を示した。
   同大使は武道における呼吸法や、集中したときに発揮される限界を超えた能力などについて触れ、「武道を通して学ぶことは理論ではなく、精神の修練・鍛錬である」と話した。そして無意識な動きとなっていること、心と体が不可分に結びついていることなどの側面を強調した。また、相手の動きを予想しながら自分が動くというコーディネーション、選択を迫られたときの決断のタイミングなどを例に、何度も困難に直面し苦闘を繰り返す武道の訓練は日常のあらゆる状況に影響を及ぼすものだとした。
   コーヘン大使はまた、自己の心の中の調和、周りの人々のなかにあっての調和をより高めるという観点からも学校教育などで武道を理解させ広めることが大切だとし、武道家がもっと世間に出ていく必要性を訴えた。
そして最後に「適切な時に適切な行動をするという本能を人類は見失いつつある。武道の鍛錬はそうした健全な本能を取り戻すためにも有効だ」と力説した。
   続いて演壇に立ったハンナシ大使は、「体育の充実は人間相互のより質の高い時間の共有を可能とする」と話し、体と精神の発育・知育のために体育の価値観を日々の行動に結びつけていかに教えるかが課題だとした。そのうえで、「武道の道場に行くとお説教や難しい哲学を教えるわけではないのに、師や相手に礼儀を尽くすなど正しいことを染み込むように、ごく自然に図らずも教えている」と述べて、武道の教育的な価値を示唆した。
   同大使はさらに、無理なく自然に大切なことを身につける日本の文化的な背景には神道の思想観があるとした。
   鷲尾師と安藤和子氏による「二天一流・組太刀」の演武をはさんで、レンツェンド・ジグジッド駐日モンゴル国大使館公使とヤドヴィガ・ロドヴィッチ駐日ポーランド共和国大使館公使参事官も講演した。
   ジグジッド公使は武道を通じての文化交流の発展に期待を示すと同時に、モンゴル相撲についても紹介。ロドヴィッチ公使参事官は「武道は心から心へ伝える文化であり、技は心の表れであるというのが武道の精神だ」と語り、自分が相手の一部になり、合流して一緒になるなかで稽古を続けるところに価値を置いた。
   このあと、駐日各国大使館の四氏に、神道国際学会の國弘正雄理事(エディンバラ大学特任客員教授)とISFニューヨーク法人の深見東州代表が加わってパネルディスカッションが開かれた。國弘氏はライアル・ワトソンの「儀礼があるから日本が活きる」との言葉を引用して武道の価値を示し、深見氏はスポーツと武道の関係を絵画と書の関係になぞらえて、「絵画の人も深いものを求めていくと、精神性を追求していくことになる。『書画同源』とも言うわけだが、楽しい中で精神性が高まっていくことも大切なのではないか」と話した。
   引き続いての質疑応答では、武道の世界平和への貢献や宗教・文化との関係性に絡んだ質問が会場から寄せられた。
   これに対して各氏は「身・心を結びつけるということは相手に対して敬意を持つことにつながる」(コーヘン大使)、「武道が宗教や文化の違いで矛盾することはない。異なった伝統と出会うことは閉塞的にならないためにも徳育のためにも大切」(ハンナシ大使)、「武道は文化の一つ。違う文化でも真剣に真面目に取り組まないと進歩はない」(ロドヴィッチ参事官)、「他の文化と付き合うのはもちろん難しいこと。カリスマ的なものがなくなれば文化が分立することもあると認識することは必要」(ジグジッド公使)、「戦わずして敵を味方にするところに武術鍛錬の精神がある。それは普遍的な宗教性でもある」(深見氏)などと話した。



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