神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
From Abroad - 外国人研究者紹介
イリット・アヴェルブッフ博士

テル・アヴィヴ大学  /  東アジア学部 準教授

フィールドワークと
 多角的な視点で「神楽」を研究
   あらゆる文化要素を宿す「神楽は日本文化の“蔵”」


   「私は、神楽はカルチュラル・ストア・ハウス(cultural store house)――つまり日本文化の『蔵』だと、いつも言っています」。日本の(祭祀儀礼)民俗宗教・民俗芸能が専門だが、とりわけ「神楽」の魅力に完璧に取り憑かれているらしい。
   「昔から大の踊り好き。でも当初は日本舞踊のイメージがあって、私のエネルギーに合わないと思っていた。ところが日本に留学したとき、山伏神楽を見てびっくり」。そのパフォーマンスにすっかり心酔してしまったようだ。
   「蔵」と表現するのは、神楽の中に日本文化に関する要素がぎっしり詰まっていることを強調してのこと。踊りの所作、そこに見られる宗教性と精神性、舞台装置と周囲に配置された道具や衣装、そして文学や文芸に関するもの……。「あらゆる要素がフィジカルなものからノンフィジカルのものまで全て入っている。神楽は日本研究に欠かせないものです」
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   イスラエル生まれ。ヘブライ大学で日本学、比較宗教学などを専攻し修士号を取得。米ハーバード大で 修士・博士号を取得した。この間、一貫して日本の民俗宗教・民俗芸能の特質を追求してきた。駒沢大、慶応大に留学。東京国立文化財研究所で教壇に立った経験もある。

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   神楽奉納の現場に足を運ぶ、その精力的なフィールド・ワークに周囲の者は舌を巻く。これまでに見た神楽の数も半端なものではないが、「今後も、神楽と名の付くものは全部見たいくらい」と言うほどだ。半年の予定で日本に滞在中の現在も、全国の神楽を踏査するため、寸時を惜しんで飛び回っている。 
   山伏が伝えた修験道の側面から分析し、舞・神懸りといった祭祀形態から宗教性を探るなど、神楽への多角的な研究アプローチを試みている。「出雲の周辺に残っていると思われる古い型の巫女神楽を見てみたい」とも話し、古層の発掘にも意欲を見せている。
   体験も重視する。羽黒山の峰入り修行に参加したことがあるかと思えば、早池峰地方の岳流石鳩岡神楽の師匠に頼み込んで強引に弟子入りしたことも。「珍しい、素晴らしいと思ったら、自分でもやってみようと。とにかくやってみたくって」と大らかに笑う。

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   神楽にも歴史的な存亡がある。あらゆる文化的要素が入っていると解釈しているだけに、「一つの神楽が廃れると、日本文化そのものがまた一つ失われる」と憂慮する。
 その点、自治体や住民が民俗芸能を文化として復活させる動きが増え始めた状況を歓迎する。「文化的にでも興味を持って面白いと思ってもらえれば、やがて神様への信仰も復活するものですよ」と期待を込めて語っている。



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